地方議会法制のあり方(2)

 2週間ほど前に参加させていただいた、政策法務に関する研究会で話題になったのが、地方自治法96条1項10号です。次のような規定になっています。

 法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合をのぞくほか、権利を放棄すること

 問題になったのは、住民訴訟で自治体が敗訴し、住民が勝訴した場合などに、議会が損害賠償請求権の放棄を議決すれば、首長や職員は損害賠償責任を免れることになり、ひいては住民訴訟が骨抜きになるのではないかということです。もちろん、研究会に参加された行政法学者や弁護士など専門家の方たちも、このような主張には批判的でしたが、ではどういう法的構成で権利放棄の議決を無効化できるのかについて掘り下げた議論まではいたりませんでした。また、一般的な地方自治法の解説書にも、この論点について触れているものは見当たらないということです。

 後日になって研究会の幹事をされている方からご教示いただいたのが、阿部泰隆教授(中央大学、弁護士)の「地方議会による賠償請求権の放棄の効力」(判例時報1955号 07年3月21日発行)という論文です。阿部教授の学説をご存知の方なら想像がつくと思いますが、もちろん、議会の権利放棄の議決無効説に立脚されています。

 判例は、権利放棄有効が主流になりつつあります。この問題が初めて訴訟になったと思われるのが、(千葉県)鋸南町事件です。納税貯蓄組合に対して納税協力の見返りとして税額の2%を一律に補助金として交付してきたことが納税貯蓄法違反であるとして、損害賠償を町長に求める住民訴訟の係属中に、議会が町長に対して損害賠償請求権の放棄議決をしたことが問題になったのです。一審の千葉地裁は放棄無効としたのですが、二審で、東京高裁が有効としました(平成12年2月26日判決)。

 このほか、新潟県安塚町(合併で現在は上越市)事件に関する一審(新潟地判平成15年7月17日)、控訴審(東京高判平成16年4月8日)とも放棄有効とされ、最高裁は上告棄却、上告不受理で住民敗訴が確定しています(平成16年11月19日第二小法廷決定)

 山梨県玉穂町(合併で現在は中央市)事件も、二審の東京高裁は有効としています(平成18年7月20日)(最高裁に上告中)。

 阿部教授は、放棄無効説に立脚し、その法的構成として、地方自治法138条の2、148条を根拠に、首長は自治体の利益を阻害するような行動は許されず、また、議会についてはこうした規定はないものの、住民の代表である以上同じであると主張しています。つまり、代理人たる議会・首長の誠実処理・善管注意義務として構成されているようです。また、首長が自分の負う債務を放棄させるのは、実質的には民法の双方代理であり、違法だとも主張されています。さらに、議会が権利放棄議決を行い、それに対して住民訴訟をする、原告住民が勝訴すれば、また放棄議決と、エンドレスになるようなことを自治法が予定しているはずがないとも主張されています。

 阿部説をかなり大雑把にまとめてみましたが、地方自治法の解釈に民法の考え方を持ち込まれているというのは、これまで「民法帝国主義」などと批判されてきた阿部先生らしからぬ(?)構成であり、そのせいか、なんとなく脆弱なような気がしてなりません。

 最高裁がどのような判断を出すかは分かりませんが、阿部説のように地方自治法の全体構造から考えるならば、もっと単純に、住民訴訟という制度をわざわざ導入していることをもっと重視するような法的構成でもよいように思います。議会は議決権として権利放棄を認めているものの、自治法が住民に住民監査、住民訴訟というシステムを提供している以上、その枠組みで生じた問題は住民監査、住民訴訟で解決しなければならないものであり、議会は関与できないという解釈はできないのでしょうか。ちょっと荒っぽすぎますか・・・

theme : 議会
genre : 政治・経済

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